多くの人は、マスメディアの情報を何の疑いもなく素直に受け人れる傾向が強い。そのため、今日(こんにち)、回復困難な脱毛症を日本にはびこらせてしまったのは、他ならぬマスメディアであるといっても過言ではないだろう。このように書いてしまうと反発を受けそうだが、事実なのだからご容赦願いたい。その一例が、「ブラシで頭皮を叩くと血行が促進されるので、脱毛予防や育毛になる」という見当違いな情報である。
この情報が氾濫した当時のマスメディアは、ご丁寧にも画面上に頭皮を叩いた場合の血流の変化を表したイメージ図まで挿入し、いかにも論理的であるかのように示しながら、多くの視聴者に「この方法によってのみ髪の毛は回復する」と信じ込ませた。テレビ画面は予想通り、絶大な説得力を以(もっ)て視聴者に受け入れられたのであるが、これを実践した人たちの結果は悲惨であった。
頭皮を叩くと、神経が通っていれば痛みが走る。痛みは、危険を知らせる警告信号であり、体からの拒否反応を示しているのはいうまでもない。
たとえば、刃物で指を切ると痛いが、この痛みは、「大切な血液が流れ出した」ことを知らせる警告信号であり、「刃物で切るのをやめるように」という拒否反応なのである。同様に、頭皮を叩いて「痛い」と感じるのも、『叩く』のはダメという否定信号なのである。
頭皮の下には、柔らかな肉質組織である皮下脂肪組織、毛細血管、毛細神経、毛胞、毛嚢、皮脂腺、汗腺、起毛筋などのさまざまな細胞や機能を内包している。そして、これらを一括して『皮下組織』と呼ぶ。皮下組織は、固い頭骸骨と頭皮にはさまれているので、頭皮を叩き続けると、皮下の柔らかい組織が傷むだけでなく、ときには完全に破壊され、やがて皮下組織そのものが回復不能になってしまう。すると、失われた組織に代わって皮膚(頭皮)が次第に厚く固くなる。
植物の種を鉢に植えると、芽を出した種は土中深く根を張りながら大きくなる。
しかし、根を張る土がないと植物は決して大きく育たない。(
皮下組織の損傷(特殊要因=人災)画像参照)。髪の毛も同様で、発毛したうぶ毛が、毛球を皮下組織の深部で膨らませ、栄養供給を受けながら成長する。その肝心な皮下組織が破壊されてしまった頭皮では、健康な髪の毛が育つはずもなく、髪の毛を蘇生させるのもほとんど不可能に近いほど難しくなる。
皮脂の取り過ぎは、脱毛症の最大の要因となる。
当社を訪れる相談者の中には、育毛サロンに通いつめて、回復困難な脱毛症になってしまった方もたくさんおられる。その中の一人の方は、恵まれた容姿からかえって髪を気にされてしまい、その結果脱毛症を発生させてしまったようだった。
その方にお話を伺ったところ、内容は他の相談者と大差なかったが、今までに支払った費用が、800万円にものぼるというのでビックリした(家一軒分も費やしたと言いながら泣いた相談者もいた)。
ちなみに、育毛サロンなどに通われた大半の方が、200万円以上の費用を支払っている。その中には学生もおり、百数十万円のローンを組んだという。なんとも豪勢で気の毒な話である。
皆さん一様におっしゃるのが、「最初はそれほどひどくなかったが、抜け毛が気になって、脱毛予防の目的でサロンに行ってみた。そこで、拡大スコープを用いた頭髪診断を受けた。画面に大きく写し出された頭皮を見ると、シャンプーした直後なのに髪の根元に皮脂が認められた。さらに、ところどころに、色の薄い髪があり驚いてしまった。《育毛カウンセラー》と称する担当者から『このままでは近い将来必ずハゲになる』といわれた。実際に髪の根元の皮脂や、健康な毛に混ざった細い毛を見てしまった後なので、本当にハゲになってしまうのではないか? と不安でいっぱいになって、いわれるままに高額な料金を払って商品を購入し、サロンに通い、ケアを忠実に実行したけれど、脱毛は止められなかった」というものである。
まるで、ドラマの脚本を読むような錯覚にとらわれてしまうほどワンパターンな進行であるが、さらに尋ねると、相談者によって支払金額が違うらしく、これはうがった見方をすれば、「人を見て、料金を設定」しているともいえそうである。
さて、それらのサロンで施されるのが、「育毛の大敵であり、脱毛症の犯人である皮脂を徹底的に取り除く」という作業である。
サロンによって方法はまちまちで、中には大掛かりな機械装置に囲まれて、鍋のようなものをかぶせられ、皮脂を吸引するサロンもあるという。
ともあれ、たとえどのような方法であっても、皮脂を根こそぎ取る行為を繰り返せば、いずれ深刻な脱毛症につながる。
①洗浄力の強いシャンプー剤を使用する
②1日に何度もシャンプーする
③洗髪用ブラシで頭皮を洗う
④育毛サロンなどで皮脂を根こそぎ取り除く
⑤高圧水流などで皮脂を取る
⑥シャンプー前に皮脂を溶かす
などなど、あらゆる方便や方法が考案されているが、方法のいかんを問わず、必要以上に皮脂を取ろうとすると、確実に脱毛症を引き起こすので、くれぐれもご留意いただきたい(「
皮脂は髪を護る大切な成分」参照)。
主に高級フランス料理に利用されるフォアグラは、キャビア、トリュフと並んで世界三大珍味の一つといわれている。美味しいフォアグラは、肝臓肥大という病に冒されてしまったガチョウやアヒルの肝臓であるが、自然界に生息するガチョウ、アヒル、そして農家などで家畜として飼われているガチョウやアヒルが肝臓肥大に侵されることはまずない。では、肝臓肥大という病気のガチョウやアヒルはどうして存在するのか?
大辞林(三省堂)に、フォアグラは「肥育したガチョウの肥大した肝臓」と簡単に紹介されている。その育て方は、まず、ガチョウやアヒルの卵をかえして3か月ぐらいまで普通に飼育する。次に、運動ができないような狭い檻に入れ、口からチューブを差し込み、食欲などおかまいなしに餌のとうもろこしを強制的に食道へ流し込む。するとガチョウやアヒルは際限なく太り出し、それに伴って肝臓も徐々に肥大する。やがて自力で動けないほど肥大したガチョウやアヒルの肝臓を、頃合い(病死寸前の状態)を見計らって取り出したのが、フォアグラなのである。この強制餌付けをガヴァージュという。フォアグラは、ガチョウやアヒルが「もう食べられない」という本能的な拒絶を全く無視して、餌を無理やり与え続けた結果、通常の5~6倍、ときには10倍くらいにも大きくさせた肝臓なのである。
当社では、頭皮がブヨブヨになってしまった方たちの相談を受けることがある。
お話を伺ってみると、皆さん一様に、育毛サロンや通信販売などで、「育毛剤を強制的に浸透させる」ための電気器具を購入されて、熱心に使用されている。
脱毛不安を自覚し、育毛サロンを訪れたところ、スコープを使用した頭皮診断をされた。大写しにされた頭皮の映像には、シャンプーをしたばかりなのに、皮脂が確認され、至るところに細い毛が見られた(注:細い毛は生え出て間もない新毛であり、健康な状態の頭皮にも当然見られる)。
するとその映像を見せたスタッフから、「このまま放置すると近い将来ハゲになる」と不安感をあおられる。そこで髪と頭皮についての正しい知識を持たなかった相談者は、勧められるまま、「細くなった毛を太くするために、育毛効果の高い育毛剤を購入して、有効成分を効果的に浸透させる」というケアを続けたところ、頭皮は柔らかくなったが、脱毛症がひどくなったという。
先に紹介したワンパターンの進行と酷似しているが、これまでと違って、皮膚のバリアー機能を破り、頭皮下に強制的に不純物を入れ込んでしまった相談者の脱毛症は、一段と深刻な状態になってしまっていたのである。体の拒否機能を無視してまで育毛剤を強制的に浸透させる育毛剤浸透器具を使用すると、結果として深刻な脱毛症になってしまう。
スキッとする爽快感は、頭皮の熱が瞬時に奪われるために起こる感覚で、多くの方がこの感覚を、育毛効果のように錯覚するようだ。現実に多くのメーカーが、この温度差が血流を促進させるとうたっているが、血管に損傷があったりすれば、この刺激方法は無効であるばかりか、かえって脱毛症を促進させる結果を招く。