第3章 人体における髪の役割|ルチアの育毛

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第3章 人体における髪の役割

人体における髪の役割

美容家の間では、髪の毛を「お顔の額縁」と呼んだりする。
カット技術ひとつでボーイッシュな感じやエレガントなイメージを自由に演出できる髪の毛は、女性にとって美しさや個性を表すための大切な小道具でもある。
男性にとっても同様で、ヘアースタイルひとつで手軽に若さや精悍さ、優しさをアピールすることができる。
それゆえにおしゃれな現代人にとって、脱毛症(ハゲ)は深刻な悩みとなる。
だが、髪の毛本来の役割は装飾ではなく、脳を護ることである。
そして、その役割ゆえに髪の毛は人が生きている限り生え続ける仕組みになっている。本章では私の発毛・育毛理論の出発点であり根幹でもある、その仕組みをわかりやすく解説していく。

バリアーとしての皮膚

私たちの体は、頭の先からつま先まで一枚の大きな皮膚でスッポリと覆われている。皮膚は、表皮、真皮(しんぴ)とに分かれている。
オブラートよりも薄い表皮の厚さには個人差があるが、平均すると0・2ミリで、28層もの細胞で構成され、酸素以外の異質物が体内に入るのを防ぐためのバリアー(障壁)をつくっている。
私たちがお風呂に入っても体内に水が入り込まないのは、このバリアーのおかげである。また、たとえば絵の具に触っても絵の具の色に染まらないでいられるのも、このバリアーの働きである。
そしてこのバリアーとしての皮膚を乾燥から護っているのが皮脂膜(保護膜)であり、皮脂膜は皮脂によってつくられる。
【人体の保護システム】
私たちの身体を包む一枚の皮膚は酸素以外の異物質が体内に入るのを防ぐ強力なバリアーである。
人体の保護システム
【表皮の構造図】
平均28層で構成されている表皮は、基底層によって毎日1層の細胞が造られ、形を変えながら表皮に向かって押し上げられる。
この1層の細胞が平均15層目で角質となり、その約2週間後に垢となって剥がれ落ちる。
表皮の構造図

バリアーとしての皮脂膜(保護膜)と常在菌

皮脂膜は保護膜とも呼ばれる。皮脂腺から分泌された皮脂が、汗腺から分泌される水分と混じり合って形成され、私たちの体から必要な水分が失われないようにしている。
そして、私たちの目には見えないが、皮膚には常在菌と呼ばれるたくさんの菌が生息していて、皮膚についた菌を食べ、私たちの体を護っている。この神秘的な営みは、私たちの体を覆っている皮膚全体で営まれており、もちろん頭皮の上も同じである。
ところがこの常在菌は、乾燥に弱い。空気が乾燥すると肌がかゆくなるのは常在菌の活動が鈍るからである。
皮膚を乾燥から護る皮脂膜は頭皮を含む肌にとって必要不可欠な大切な成分である。
 
さらに皮脂膜はまた、キューティクル(歯の表面を覆っているエナメル質に似た成分)によって固められている髪の毛の一本一本に対する、バリアーの役目も果たしている。
育毛剤のテレビコマーシャルなどで育毛の大敵とされている皮脂は、実は、私たちの体にとって、なくてはならない大切な成分なのである。
皮脂膜(保護膜)

髪は「脳の護り神」

生命を維持してゆく上で、私たちの体に大切でないものはひとつもなく、その中でも、どんな小さな傷ひとつも許されないのが、脳である。
脳は熱や衝撃などに非常に弱く、巧緻(こうち)なガラス細工のように繊細な存在である。そのために脳は、完全に骨で覆われている。
人の髪の毛は、およそ10万本あるといわれている。
直立歩行をする人間の頭頂部は人体の中で、最も外気温の影響を受けやすい場所である。そのため一本一本が細い髪の毛は、頭蓋骨の上にあって互いの間に空気をとどめ、夏には直射日光をさえぎり、寒い冬には頭皮の温度が下がらないよう保温の役割も担っている。
つまり直射日光や寒さなどから、脳が受けるダメージをより少なくしているのである。

そしておよそ10万本もの膨大な数量の髪の毛は、脳を覆っている頭蓋骨の上にあり、不意の衝撃などをやわらげるクッションの役割も果たしている。
そのために髪の毛の一本一本が、キューティクルによって固められて丈夫にできており、仮にこれを束ねると、ワイヤーロープに匹敵するほど強靱なものになる。髪の毛は、脳にとって必要不可欠な温度調節装置であり、また防護壁でもある。髪の毛の最大の役割のひとつが、脳を護ることである。このように厳重なシステムによって脳を護る役目を担っている髪の毛は、本来、人体にとってなくてはならないものなのだ。
脳を護る頭蓋骨を皮膚と髪の毛が護り、その皮膚と髪の毛を、皮脂膜と常在菌が護っている。
だから髪の毛は「脳の護り神」といえるのである。
 
【髪は脳の護り神】
およそ10万本もある人の髪の毛は、互いの間に空気をとどめ、夏は直射日光をさえぎり、寒い冬には頭皮の温度が下がらないよう保温の役割を担っている。
また、頭蓋骨の上で重なりあって、外からの衝撃をやわらげ、脳を護っている。
髪は脳の護り神

髪が生え続ける理由

人体のバリアーシステムのひとつとして、頭蓋骨の上にあって保温やクッションの役割を担っている髪の毛は、実はもっと大きな役割を担っていて、その役割ゆえに人が生きている限り生え続ける仕組みになっている。
私たちは摂取と排泄によって命を営んでいて、摂取した飲食物から消化器官の働きで必要な栄養分と水分を吸収し、排泄器官の働きで老廃物を排泄する。一般にはあまり知られていないが、髪の毛はその排泄器官のひとつでもある。
つまり胃や腸で分解された飲食物は体に必要な水分、栄養分、ミネラルなどが吸収された後、便や尿などの老廃物となって体の外へ出される。
それでも排泄しきれなかった有害成分などの老廃物が髪の毛に含まれて体の外に出されるようになっている。
覚醒剤などの薬物の使用歴が髪の毛によってわかるのはそのためなのである。

髪の毛は、人体を有害成分から護るための大切な排泄器官でもあるのだ。そのため頭皮下には膀胱(ぼうこう)に尿が溜まるのと同じ理屈で老廃物が集まる仕組みになっている。その老廃物が毛母細胞の働きで髪の毛に含まれて体の外に運び出される。
この命の営みは人が生きている限り続く。どんなにハゲてしまったように見える頭皮にもうぶ毛などが確認できるのはこのためである。
このように、人が生きて呼吸をしている限り、髪の毛は生え続ける。
 
そして人体のバリアーシステムのひとつとなり、私たちの大切な脳を急激な温度差や衝撃から守ってくれるのである。
多くの人が悩む脱毛症は、日々絶え間なく生え続ける髪が何らかの理由で成長することなく抜け落ちてしまう現象にすぎず、抗がん剤の投与がなくなれば髪が回復するように、脱毛の要因がなくなれば簡単に治る一時的な現象なのである。
ゆえに、ハゲ治しは、せっかく生え出た新毛を成長毛に育てるだけでよいのだから、発毛剤の研究や毛髪再生医療などは見当違いであると私は考えている。
実際、ハゲ治しは簡単なのだ。
髪の役割

肌(頭皮)の保護機能とメカニズム

私たちの体をスッポリと覆っている皮膚は、酸素以外の異質物が体内に入り込まないようバリアーの役割をしていると先に書いた。
このバリアー機能は、皮膚のおかれた環境によって強くなったり弱くなったりする。
日ごろ太陽に親しむ機会の少ない者が海水浴に出かけ、海辺などで強い日射しを受けると表皮細胞が死滅してしまう。
死滅した表皮細胞はすぐに剝(は)がれ落ちるのではなく、保護機能の働きによって、新しい表皮層が出来上がるのを待ってから剝がれる。
また一方で、日射しに対抗して色素細胞がメラニン色素を生産し、太陽の熱が体の奥まで届かないよう、表皮層の下で色素によるバリアーを形成する。日焼けすると肌が黒くなるのはそのためである。

ただし、メラニンの質は人種によって異なるため、日本人がどんなに肌を陽に焼いても、黒人のような肌色にはならない。
強い日射しを受け続けると、肌はメラニン色素の助けを受けながら、表皮のバリアー層をだんだん厚く固くさせる。
つまり、寿命がきて剝がれ落ちるはずの角質が落ちないようになる。
漁師や屋外で長く過ごす方の肌が厚くて固いのは、この、肌の保護機能が働くからである。
裸足で土俵上を動き回る力士の足の裏は厚く固く、たとえ釘を踏み付けても痛みを感じないという。これも裸足で土俵の上などを動き回るうちに足の裏の表皮の保護機能が作動し、皮膚を厚く固くさせてゆくからである。裸足で動き回るすべての力士の足の裏は、いつか履物の役割まで果たすようになってしまう。このように、皮膚は必要に応じて厚く固くなる。もちろん頭皮も例外ではない。

頭皮は脱毛や刺激に対抗して、その面を厚く、固くさせる

私たちの頭部から、髪の毛がなくなってしまうと、外部からの衝撃や温度が、緩和されることなくそのまま脳に伝わってしまう。
すると、髪の毛に代わって脳を護るメカニズムが働きはじめ、皮脂分泌を多くしてバリアー機能を高めながら、頭皮を厚く、固くさせる。
このメカニズムは、力士の足の裏の皮膚が厚く、固くなるのと同じ原理である。頭皮が厚く、固くなると、脳に伝わる衝撃や温度は幾分緩和されるが、その一方で、新毛が頭皮面に出られなくなる。
新毛が頭皮面に出られなくなると、必然的に毛髪は少なくなる。すると髪の毛の役目も果たさなければならない頭皮は、ますます厚く固くなるという悪循環に陥って、脱毛症の歯止めがきかなくなる。
また頭皮に直接ドライヤーの熱を当てたり、爽快感を伴うヘアケア商品の使用によっても頭皮は厚くなる。爽快感は、頭皮上の水分と熱が瞬時に奪われるために起こる感覚であるからだ。ドライヤーは頭皮ではなく、髪を乾かしたりヘアースタイルを整えるために使用するものなので、頭皮ではなく髪に当てるようにするとよい。
髪の毛には脳に伝わる温度を一定に保つ役割もあり、ドライヤーの熱や、爽快惑を伴うヘアケア商品の使用によって起こる頭皮上の急激な温度差に対しても保護機能が働く。頭皮が厚くなるのは自然な現象である。
頭皮が厚くなると、厚い頭皮に阻まれて、新毛は出にくくなるし、辛うじて誕生しても育ちにくく、寿命を全うできなくなってしまう。

つまり、
「刺激性の育毛剤」→「頭皮の温度変化」→「保護機能作動(頭皮の肥厚(ひこう ))」→「発毛・育毛困難」→「頭皮の肥厚」→「脱毛症」→「頭皮の肥厚」→「脱毛症の悪化」
という悪循環になる。