第10章 スコープで見た世界からわかる髪のこと|ルチアの育毛

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第10章 スコープで見た世界からわかる髪のこと

本書の最後となるこの第10章では、「スコープで見た世界からわかる髪のこと」と題して、これまで述べてきた内容を踏まえ、私の考え方についてお伝えしていきたい。

皮脂は髪を護る大切な成分

この項は、皮脂の働きを見たままに描写した私の前著『育毛の真理』(KADOKAWA刊)から加筆修正することなく引用したものである。
皮脂の役割を知っていただくには私の感動をそのまま表したこの文章が最も適切であると判断しての転載である。
いきなりで恐縮だが、下記にあげた写真はすべて200倍スコープに映し出された私の頭皮の拡大写真で、様々な形で盛り上がっている白いかたまりは、分泌された直後の皮脂である。
200倍スコープ
職業柄皮脂が分泌される瞬間を目にするチャンスが多々あるが、何度見ても、うれしくてわくわくする。
モリッと一度に出る場合もあれば、夏の入道雲のように、ムクムクと出る時もある。また、ジワーッと出る場合もあったりして、同じ私の頭皮に分泌される皮脂なのに、その多様性にはいつも驚かされる。この真っ白なかたまりが、汗と混じり合って皮脂膜(ひしまく)(保護膜(ほごまく)とも呼ばれる)になる。

皮脂から少し離れたところににじみあがった汗が、ゆっくりと広がって、その汗が皮脂に届く。すると白い皮脂が一瞬で透明色に変化する。
透明色に変化した皮脂がゆっくりと広がるように見えた次の瞬間、まるで生き物のようにピュッと髪に飛びつき、その髪を包むようにして毛先の方に広がってゆく。
すると髪の表面が鏡のようなつややかな光沢を帯びる。皮脂が保護膜に変わった瞬間である。その瞬間を見る幸運に巡り合えた時の喜びと感動は、どのような言葉をもっても表現し尽くすことはできない。まさに筆舌に尽くし難いという思いである。この神秘的な動きが何度も繰り返されて、やがて髪の先まで皮脂膜がゆきわたる。髪が長いと、毛先まで皮脂が届くのに相当な時間を要する。毛先が傷みやすいのはこのためである。
皮脂の出方もいろいろだが、皮脂膜が形成されて広がる様子もまた、さまざまである。
皮脂のいろんな出方

汗と混じり合った皮脂が、そのまま頭皮に広がる場合もある。
また、髪の根元から毛先にむかってゆっくりと滑るように広がることもある。
このように、悪玉と誤解されることの多い皮脂は、実は、汗と混じり合って私たちの髪と頭皮を乾燥や細菌の感染などから護ってくれる皮脂膜を形成する、なくてはならない大切な成分である。
私たちの皮膚は、乾燥にとても弱い。空気が乾燥すると肌が荒れるのは、表皮が傷むからである。また、頭皮が乾燥すると細かなフケが発生するのも、このためである。
この乾燥に弱い皮膚を護っているのも、皮脂によってつくられる、皮脂膜である。皮脂膜はその役割から保護膜とも呼ばれる。
皮脂は頭皮を含む、私たちの全身から分泌されて保護膜を形成しているのである。
皮脂と汗が混じると皮脂膜になる
どんなに乾燥した空気の中にあっても、私たちの身体から水分が蒸発してしまわないのは、この、保護膜のおかげなのである。保護膜の上には、常在菌と呼ばれる菌が生息していて、皮膚についた雑菌を退治して、私たちの身体を病から護っている。ところが、この常在菌も、乾燥に弱い。この常在菌を乾燥から護っているのもまた、皮脂でつくられる、保護膜なのである。

余談になるが、皮脂でつくられる保護膜は、美容界では天然の乳液ともいわれている。私たちが使用している化粧品は、この保護膜に似せてつくられている。化粧品の究極の目標は、実は、皮脂でつくられた保護膜なのである。このように皮脂は、私たちの体を乾燥や雑菌などから護っている大切な成分であって、決して育毛を妨げる成分ではない。また巷(ちまた)では、皮脂のかたまりが、育毛剤などの有効成分の浸透を妨げるという風説があるが、決してそのようなことはない。

まるで毛穴をふさいでいるように見える、分泌された直後の皮脂のかたまりは、水でも簡単に洗い落とせる、きわめて柔らかなもので、しばらくすると、汗と混じりあって皮脂膜に変わる。
また、皮脂は、人体に必要な成分が皮膚から入り込むのを妨げることはない。

たとえば、湯治(とうじ)といわれる行為は、病や傷などの治癒を目的に、温泉水に含まれる有効成分を、体内に浸透させるために湯につかる行為だが、全身の皮脂を洗い落とさないまま温泉につかる。それでも温泉の有効成分が、皮膚を通して吸収される。このことからも、皮脂が育毛剤の有効成分の浸透を妨げるものではないという事実をお分かりいただけると思う。
後に詳しく述べるが、皮脂を根こそぎ取ろうと、洗浄力の強いシャンプーを使用したり、頭皮を長時間洗うなどの行為は、頭皮に様々なトラブルを引き起こし、かえって脱毛を促進させる結果となるので絶対にしてはいけない。


以上である。髪にとって皮脂がいかに大切な成分かということ、そして皮脂の
働きについてご理解いただけたら幸いである。

毛穴と毛母細胞は無限

「毛穴がないと髪が生えない」という風説があるが、とんでもない間違いで、頭皮がすこやかであれば毛穴は必要に応じてつくられるようになっている。強い陽ざしで肌を焼いても死滅した表皮に代わる皮膚が生まれるように、毛穴も毛母細胞も必要に応じて生まれ、人が生きている限り髪の毛をつくり続ける。現実に私は、ステロイドなどの残留成分の影響で、まるで手のひらのようになってしまっていた相談者の頭皮に新毛が生え出る瞬間を何度も目撃している。初めて目撃したのは、今から18年ほど前のことで、まるで手のひらのようだった頭皮が、「ルチアさんのヘアケア法で、徐々に改善された」と嬉しい申告をしてくださった方の頭皮チェックをした時だった。
肉眼では全く見えなかったのに、200倍スコープで頭皮を観察してみると、まるで鉛筆の芯が埋まっているような黒い点が無数に確認された。何だろうと不審に思っていたところ、その黒い点からいきなりビヨーンといった感じで新毛が飛び出したのである。ハゲは必ず治るという私自身の理論に前よりも増して自信を得た瞬間で、その時の感動は今も忘れることができない。
ちなみに、頭皮が健全な方の場合、新毛はつくしが土の中から顔を出すように、にょきっという感じで頭を出す。その新毛は透明で、その後色素細胞の働きで色が加わるのだが、頭皮に問題のある方の場合は頭を出し切れなかった新毛が腰を折るようにUターンした形になり、頭皮に埋まった状態で色が加わるので、ビヨーンと顔を出す新毛はすでに黒くなっている。実に面白い現象である。

話は変わるが私がエステティックを始めた頃、エステティック業界で流行った美容法のひとつにピーリングと呼ばれる角質取りがあった。ピーリング剤を用いておよそ14層ある角質を取り除く美容法で、角質が失われた肌はまるで赤ちゃんの肌のようになるというので、大変な人気であった。しかし、本来なら毎日1層ずつ取れるはずの角質を一度に14層すべてを取り除くこのピーリングを頻繁に行うと逆にシミや小皺などに代表される深刻な肌トラブルが引き起こる。表皮細胞群に計り知れない負担がかかるからである。
それでも表皮の角質層は必ず再生する。なぜなら第3章で詳しく紹介しているように、人体のバリアーシステムを担う皮膚細胞が、どんなに人為的に角質を取り除いても角質をつくり続けるからである。
そして皮膚細胞が尽きることは絶対にない。
同様に、皮膚の変型である髪の毛も人体のバリアーシステムを担っているのだから、髪の毛をつくりだす毛母細胞が尽きることは絶対にない。

髪の毛には体内の老廃物を体外へ運び出す役割があるので、たとえ頭皮の状態に問題があっても、皮下で毛母細胞が髪の毛をつくり続ける。
その髪の毛が頭皮面に顔を出せる状態になれば髪が生え出るのが当然なことである。
ハゲは決して遺伝ではないし、人が生きている限り、毛母細胞がなくなる心配はない。したがってハゲは必ず治ると言いきれる。そして実際にハゲ治しは簡単なのである。