第2章 毛髪に関する風説の検証|ルチアの育毛

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第2章 毛髪に関する風説の検証

風説① ハゲは遺伝する

本章ではハゲに関するさまざまな風説について一つひとつ検証していく。世の中の風説がいかに間違ったものであるかを知っていただきたい。

子どもたちが幼かった頃のある日、幼稚園から帰った長男が思いつめた様子で「パパはどうして毛がないの?」と私に問いかけた。
父親参観日からまもない日であったと記憶している。
そういえば、幼稚園に通う我が子の姿を見るために集まった父親たちの中で、髪の毛が薄かったのはこの子の父親だけだったと思い返しながら、この予期せぬ問いかけに私は大いに戸惑った。
心細げに私を見つめる長男の目があまりにも真剣なので、心中密かに『目をそらしてはいけない、彼を納得させなければならない』と考え、忙しく頭を回転させた。
私は長男の目を見つめかえしながらとっさに、当時テレビで放映されていた「鉄腕アトム」を引き合いに出し、「アトムの博士も毛がないでしょ? 偉い人は毛がないの」と短く言った。
すると長男はまゆ毛を八の字にし、困ったような顔をしながら、「ふーんそうなの」とつぶやき、しばらく下を向いてモジモジしていたが、やがてパッと顔をあげ、「そっかーえらいのかー、うん! えらいんだ!」と晴れやかに嬉しそうに言った。

数日後、家の前の空き地で遊んでいた長男が大きな声で叫んだ。
「ママー、ママー、きてごらん。ハゲ! ハゲ! ハゲがとおるよ!」見ると空き地の向こうの道を、髪の薄い中年の男性が歩いてゆく。
その男性には長男の大きな声が聞こえた様子で、まるでゼンマイ仕掛けのロボットのようなぎこちない歩きかたで足早に去ろうとしていた。私は大いに困惑し、「シッ! シッ! 声が大きいよ」とたしなめたが、長男は興奮しきった様子で、「みて! みて! あのおじさん、パパよりハゲてるよ!」
と叫び続けた。男性が視野から消えると、長男は頰を紅潮させながら、「あのおじさん、パパよりえらいんだねー」と言った。

その長男が中学生になった頃、「おじいさんもハゲてたの?」と自分が生まれる前に他界した祖父の髪の状態を気にし、「僕もハゲるかなー」と、不安をもらした。彼の友人たちの間では、ハゲが遺伝するという話題が持ち上がっていたのだという。
一般にハゲは遺伝すると考えられているが、ハゲは遺伝ではない。
その証拠に人の遺伝子の中に髪の毛の消滅情報は確認されていない。存在しないからだ。このことは本書を読み進んでいただければ容易に理解していただける。
本書で詳しく述べる髪の寿命及び仕組みと構造、その役割に照らしてみれば、髪の毛には生命維持にもかかわる大切な役割が備わっているのがわかる。

「ハゲは遺伝する」という世界共通の迷信は、少し前まで「乳房は女性の命であり、これを取ると死に至る」と信じられていたのと同レベルの、根拠のない思い込みでしかない。
乳房を取り除くと女性は死んでしまうという古くからの迷信は、明治の頃まで続いていた。世界で初めて全身麻酔剤を開発した、偉大なる日本の医師華岡青洲も「乳房は女性の命であり、これを取ると死に至る」と信じ込んでいたために、妹の乳癌の手術を施すことができなかったと一部で伝えられている。
しかし今では女性の乳房を取ると死ぬと考える人はいない。
同じように「ハゲは遺伝する」と考えられているのは単なる迷信にすぎないのである。

一説によれば人のDNA(遺伝子情報)は31億塩基対もあるという。そのほとんどは人体の構造に関するものであり、親子関係を表すDNA、たとえば私たちが俗に「遺伝」と呼ぶものも含まれてはいるが、それらはDNAのうちのごくわずかでしかない。
親子関係を表す「遺伝」は、たとえば目の大きさや形などの表面的な特徴をはじめ、根源的な性格などの一部も継承するといわれている。
髪と頭皮に限っていえば、 DNAによって祖先から継承される特徴は、髪の毛の色や太さ、クセ毛などの情報と、皮脂穴(皮脂腺)の大きさ、皮脂分泌の量などである。
親子関係を表す遺伝子情報の中に、髪の毛の消滅情報は存在しない。
もっと言うと人の遺伝子情報の中には、皮膚の変型である髪の毛の消滅情報は、存在しないのである。

こんな風に自説を展開すると、「親子でハゲる場所やハゲ方が似ている」などと反論されるが、それは間違ったヘアケア法や生活習慣が似てしまうからにすぎない。そして、どの部位が薄くなるかといった特徴は、たとえていうならニキビがどこにできやすいかくらいの違いでしかないし、眼の大きさや両目の離れ具合、一重瞼か二重瞼か、眉との間が広いか狭いかといった違いにすぎない。
また、親族のなかでなぜかひとりだけが脱毛症であったり、逆に多くの親族が脱毛症なのに、正しいヘアケア法によって、ひとりだけ髪が豊富な事例などは枚挙にいとまがないほどある。
親子で似たようなかたちで薄くなったとしても、ハゲは決して「遺伝」ではないし、人が生きている限り、毛母細胞がなくなる心配はない。したがってハゲは必ず治ると言いきれる。

風説② 男性ホルモンが多いとハゲになる

「男性ホルモンが多いとハゲになる」―― ほとんどの方がまるで真実であるかのように信じているが、この説は、ハゲは男性特有の現象で女はハゲないという誤解をもとに、「睾丸から分泌された男性ホルモンが血液中に入って毛球部にたどりつき、ある種の働きをし、毛をだめにする」という曖昧な論法からきている。
冷静に考えればわかることだが、もしこの説が正しければ、男性ホルモンが最も多く分泌される思春期から壮年期にかけて、すべての男性の頭はツルツルになるはずだ。
しかし、あらためて見回すまでもなく、若い男性の髪は豊富である。この事実からも、男性ホルモンが脱毛症の原因でないと納得していただけると思う。もっとも、男性ホルモンは脱毛症の直接原因ではないが、男性ホルモンが多いと、皮脂分泌の量が必要以上に多くなる上に、体温も高くなるので、皮脂の酸化が早くなる。
この酸化した皮脂には汚れが付きやすく、汚れた頭皮は脱毛症の要因となる。

つまり、
「男性ホルモンが多い」→「皮脂の過剰分泌」→「皮脂の酸化が早い」→「汚れが付きやすい」→「皮膚呼吸ができにくい」→「毛母細胞の呼吸困難」
と、抜け毛の条件が揃いやすくなる。

したがって男性ホルモンが多い方(脂性(あぶらしょう)の方)は、毎日必ずシャンプーをしたほうがよいのだが、現実には「シャンプーをすると毛が抜ける」といった間違った認識から、頭皮の汚れを放置したままでいる場合が多く、その結果、男性ホルモンの多い方のほうが、そうでない方にくらべ脱毛症になる率が高くなる(逆に必要以上に洗い過ぎてかえって脂性が昂進(こうしん)されてしまい脱毛症になる場合もある)。
シャンプーを怠ると、当然脱毛症になる危険が増してくるし、シャンプー剤の選択を誤ると、いっそう脱毛症を促進させてしまうことにもなる。
だが、男性ホルモンが多いために皮脂分泌が多いのは、決して悪いことではない。
皮脂分泌が多い男性は、皮脂が天然の保護膜を形成して肌を護っているので、女性にくらべて顔などに小皺(じわ)ができにくいし、年齢を重ねても、女性の肌より若く見えるというメリットもある。

男性ホルモンが多くても、それだけで脱毛症になったりはしない。
男性ホルモンと脱毛症を結び付けて考えるのは間違いである。また、たとえ男性ホルモンが多くて髪の毛が細くなったとしても、髪はなくならない(第3章 人体における髪の役割「髪が生え続ける理由」参照)。つまり、ハゲにはならないのである。

風説③ 女性はハゲない

多くの人が、ハゲは男性特有の現象で、女性はハゲないと思っているが、脱毛症は性別に関係なく起こる。
最近女性の脱毛症が多くなったと話題になっているが、女性の脱毛は近年になってからのものではない。「黒髪は女の命」といわれた昔から抜け毛に悩む人は多く、髪に対する女性の苦悩は相当なものだった。

たとえば、平安時代、和漢の学に通じた才女である清少納言も、『枕草子』の中で自分の髪に対する悩みを記している。自分の容姿を「もう花の盛りも過ぎ、髪は抜けおちて少なくなったので、カモジ(部分カツラ)をつけている」と告白している。このときの清少納言はまだ20代の若さであった。
清少納言に限らず、この時代の女性たちは腰まで垂れた黒髪をごく稀にしか洗髪しなかったので、頭皮は汚れで覆われ、髪の毛の成長に必要な皮膚呼吸ができにくくなり、大部分の女性たちは20代で脱毛症を起こしていたのである。
さらに清少納言は気に入ったカモジを見つけられず、「自分の髪の色と、カモジの色が違う」のを気にし、「なるべく明るいところに出ないようにしている」と嘆いている。
紫式部の『源氏物語』の中にも、髪の毛が薄くなってカモジをつけている女性の話が出てくる。平安時代は豊富な黒髪が女性の美しさの象徴だった時代でもあり、髪の毛の多さが女性の若さと美しさをはかるバロメーターにもなっていた。その髪の毛が20代で抜け始めるのだから、女性たちの髪に対する悩みは切実だったのであろう。

明治になると男性は髷(まげ)を落として髪を短くしたが、おおかたの女性たちは相変わらず日本髪を結(ゆ)っていたので、脱毛の悩みからは解放されなかった。自毛で結う日本髪は髪形を整えるために、毛束(けたば)という本人の毛ではないものを髪の毛の中に入れ、さらに鬢(びん)付け油を用いて固めたりするので、頭皮はムレて呼吸がしにくくなり、洗髪回数の少なさと相まって、頭頂部は知らぬ間に丸い形に脱毛してゆき、やがて修復のきかないハゲになっていった。
しかし女性たちは毛束を多めに入れたりして工夫したので、はた目には髪があるように見え、女性のハゲは男性のハゲにくらべて目立ちにくかったのである。
日本髪を結っていた頃までの日本女性の脱毛症は、おもに汚れの積もった頭皮の呼吸困難から生じた。

戦後、日本髪を結う女性が少なくなり、家庭風呂が普及したので風呂場での洗髪が習慣になったが、それでも女性たちの薄毛は解消されなかった。
時代の変遷(へんせん)とともにオシャレの内容も変わり、女性たちは若い頃からパーマやヘアダイなどで髪と頭皮をいためつけ、ヘアースプレーやヘアームースなどを使って、ヘアースタイルを整えることばかりに神経を遣っている。しかも頭皮の汚れを落とすために最も大切なシャンプー剤の選択を誤っている場合も多い。
これでは脱毛症を促進させるばかりで、豊かな髪は期待できない。
清少納言や紫式部の時代も、女性たちは脱毛症に悩んでいたが、現代女性もまた、ハゲと無縁ではないのである。

また「髪の毛は女性ホルモン(抜け毛は男性ホルモン)」という説が広まると、髪の薄い女性は性格も男性的であるといったまことしやかなデマが飛ぶようになり、髪の毛が女性ホルモンと関係あるように言われるが、髪の毛と女性ホルモンとはなんの関係もない。
人の体に生えている毛の中で、性ホルモンに影響される毛は、脇毛、恥毛、男性のヒゲ、脛毛(すねげ)などで、これらの毛は思春期に至り、性ホルモンの分泌に伴って生えたり、濃くなったりする。
しかし生まれた時すでに備わっている髪の毛や、まゆ毛、まつ毛などの毛は、性ホルモンに影響されるものではない。
「髪の毛・女性ホルモン説」は、女性より男性に脱毛症が多いという錯覚から短絡的にひねり出された仮説にすぎない。
ハゲはもっぱら男性に起こる現象であるという錯覚も、「髪の毛・女性ホルモン説」によってもたらされた誤解である。
薄毛に悩む女性に対し「男性ホルモンが多い」とか「女性ホルモンが少ない」というのは根拠のない偏見であり、一種のセクハラでさえある。

風説④ シャンプー(洗髪)をすると毛が抜ける

多くの方がシャンプーをすると毛が抜けると今も信じている。
特に年配の方や髪の薄い方に限って、なかなか洗髪しようとしない。とんでもない間違いである。
たしかにシャンプー時には抜け毛が確認されるが、それは次のような理由による。およそ10万本ある髪の毛は、5年から10年の周期で生え替わるが、頭髪は常に10万本を維持している。寿命のきた毛が抜け落ちても、その数だけ新しい毛が生えてくる仕組みになっているからである。

髪の毛の寿命には個人差があって、仮に毛周期を5年とすると、単純計算でも1日に54・7本の毛が抜け落ち、同数の新毛が生えてくる。寿命がきた髪が抜け落ちると、その同じ数だけ新しい毛が生えてくるのは、人体の神秘現象のひとつである。
寿命がきて自然に抜け落ちるこれらの抜け毛は、抜けると同時に頭から離れるのではなく、たくさんの髪の毛の間にひっかかっている。

つまり、髪の毛の間には常に寿命がきて抜けた毛が落ちずにとどまっているのである。
したがって抜け毛に悩む方が、「頭皮を指の腹で洗うなんてとんでもない」と、この上なく慎重にやさしく髪を洗っても、シャンプーの泡に混じり、すでに抜けていたそれらの毛や、たまたま抜ける寸前にあった毛が、まとめて洗い流される。
当然のことだが、何日ぶりかでシャンプーすると、髪の毛の間にとどまっていた抜け毛の量は、毎日シャンプーするときよりも多くなる。
たまにしか洗髪しない方がシャンプーを終えると、排水口に黒々と抜け毛が山をなしたりするのもそのためである。
そして、排水口にたまった抜け毛の多さに「あ、こんなに抜けた。やはりあまり洗わないほうがいいんだ」と、小さな後悔をしたりする。
この体験が、「シャンプーをすると毛が抜ける」という迷信を広めてしまった。
「シャンプーをすると毛が抜ける」のではない。「シャンプーをしないと毛が抜ける」のであり、「シャンプーをすると抜けていた毛がとれる」のである。

風説⑤ 白髪の人はハゲない

髪の毛をつかさどる細胞の中には、髪の色を左右する色素細胞(メラニン細胞)があり、この色素細胞の情報は親から受け継がれるものである。
つまり、生まれついての黒髪、金髪、茶髪、灰色など、髪の色は色素細胞の遺伝情報によって決められる。この遺伝情報は、抜け毛などの脱毛症とは連動しない、独立した情報である。

黒髪が白く変わるのは、毛の色をつくる色素細胞の働きが悪くなったために起こる現象であり、多くの場合脱毛とは連動していないが、老化に伴い併行して起こってくる。
白髪の人はハゲないと思っている人たちもいるが、白髪であっても頭皮が不潔であったり、血管に問題があれば黒髪と同じように髪は細くなり、やがて抜け落ちる。
白髪は黒髪にくらべて体積が大きく軽いためにかさばって見え、同じ本数でも黒髪の数倍も多く見える。そのために、同じように脱毛が進んでも白髪のほうが髪の量が多いような印象を与える。また年齢が高くなると、脱毛が起こらない方も白髪になるので、白髪はハゲないという錯覚した説が広まったのであるが、白髪になったからといって、ハゲと無縁ではない。

また、白髪を抜くと白髪が増えるという俗説があるが、白髪は本来ならうぶ毛の状態で生え出た髪に色素を上げるはずの色素細胞の働きが悪くなって起こる現象で、単的にいうと老化現象でもある。
そこで、生え出た白髪を抜いてもその毛根部分が若返ることもなければ、色素細胞が増殖するわけでもない。
したがって抜いた白髪の周辺に新たに生える髪も当然白髪となるだけである。白髪を抜いたから白髪が増えることはないので、少量の白髪は気に病むより抜いた方が手っ取り早いと思う。ハゲに関する風説は今挙げたもの以外にもさまざまあるが、本章では代表的なものについて検証した。
次章では、私の発毛・育毛理論の出発点となった、人体における髪の役割について解説していく。