「男性ホルモンが多いとハゲになる」―― ほとんどの方がまるで真実であるかのように信じているが、この説は、ハゲは男性特有の現象で女はハゲないという誤解をもとに、「睾丸から分泌された男性ホルモンが血液中に入って毛球部にたどりつき、ある種の働きをし、毛をだめにする」という曖昧な論法からきている。
冷静に考えればわかることだが、もしこの説が正しければ、男性ホルモンが最も多く分泌される思春期から壮年期にかけて、すべての男性の頭はツルツルになるはずだ。
しかし、あらためて見回すまでもなく、若い男性の髪は豊富である。この事実からも、男性ホルモンが脱毛症の原因でないと納得していただけると思う。もっとも、男性ホルモンは脱毛症の直接原因ではないが、男性ホルモンが多いと、皮脂分泌の量が必要以上に多くなる上に、体温も高くなるので、皮脂の酸化が早くなる。
この酸化した皮脂には汚れが付きやすく、汚れた頭皮は脱毛症の要因となる。
つまり、
「男性ホルモンが多い」→「皮脂の過剰分泌」→「皮脂の酸化が早い」→「汚れが付きやすい」→「皮膚呼吸ができにくい」→「毛母細胞の呼吸困難」
と、抜け毛の条件が揃いやすくなる。
したがって男性ホルモンが多い方(脂性(あぶらしょう)の方)は、毎日必ずシャンプーをしたほうがよいのだが、現実には「シャンプーをすると毛が抜ける」といった間違った認識から、頭皮の汚れを放置したままでいる場合が多く、その結果、男性ホルモンの多い方のほうが、そうでない方にくらべ脱毛症になる率が高くなる(逆に必要以上に洗い過ぎてかえって脂性が昂進(こうしん)されてしまい脱毛症になる場合もある)。
シャンプーを怠ると、当然脱毛症になる危険が増してくるし、シャンプー剤の選択を誤ると、いっそう脱毛症を促進させてしまうことにもなる。
だが、男性ホルモンが多いために皮脂分泌が多いのは、決して悪いことではない。
皮脂分泌が多い男性は、皮脂が天然の保護膜を形成して肌を護っているので、女性にくらべて顔などに小皺(じわ)ができにくいし、年齢を重ねても、女性の肌より若く見えるというメリットもある。
男性ホルモンが多くても、それだけで脱毛症になったりはしない。
男性ホルモンと脱毛症を結び付けて考えるのは間違いである。また、たとえ男性ホルモンが多くて髪の毛が細くなったとしても、髪はなくならない(第3章 人体における髪の役割「
髪が生え続ける理由」参照)。つまり、ハゲにはならないのである。