トップ ルチアの育毛 第6章 生活習慣と脱毛症

第6章 生活習慣と脱毛症

飲酒喫煙は脱毛症の素?

『酒やタバコが脱毛症の原因になる』という説がある。珍説である。
この説が広まったのは、「アルコールやニコチンが害となって毛根を弱らせる」として、育毛相談に訪れる方たちに対して、『禁酒、禁煙こそ育毛に絶対必要』と、大手育毛メーカーや育毛サロンなどが喧伝した結果である。
他にも同じようなことが雑誌などに書かれたこともあって、その後たくさんの方から真偽についてお問い合わせをいただいた。
結論からいうと、酒やタバコが脱毛症を促進させるというが、酒好きや、ヘビースモーカーであっても、髪の毛が豊富な方はいくらでもいる。
もし、『アルコールやニコチンが脱毛症の原因』という説が正しいのであれば、アルコール依存症患者の収容施設に入院している喫煙者は全員ハゲということになるが、現実にはそのようなこともない。

毛髪がふさふさのまま七十二歳で他界した私の父は、大酒飲みであった。
私は幼いころから、父の酒量の多さを嘆く母を見て育った。その父は、中年になって酒量が減ったのをしきりに嘆いて、「俺も弱くなった。若い頃は日に二升は飲めたがナ」といいつつ、それでも多い日には一日一升の酒を飲んでいた。
そして当時もっともニコチンが多いといわれていた『ゴールデンバット』というタバコを毎日二箱以上吸っていた父の指先は黄色く変色していて、ニコチンと体臭がブレンドされたような独特な臭いがしたものだった。今でも私が父を思い出すとき、必ずこの『タバコの匂い』が鼻の奥に鮮烈に蘇ってくる。
父はタバコを指先が焦げそうに短くなるまで吸うのが好きだったのである。
『飲酒、喫煙が脱毛症の元』といわれるが、人並み外れて酒もタバコも好きだった私の父は、脱毛症とは全く無縁だった。
愛煙家にとっては精神安定剤の役割を持つタバコも、『百薬の長』ともてはやされる酒も、度を超すと害になるのは当然であるが、育毛のためだけを考えれば、無理に止める必要もない。

ヘルメット、帽子の着用と脱毛症

毎年夏の到来とともに急増するのが、「帽子を着用するとハゲますか?」という問い合わせである。脱毛や薄毛の悩みを反映した質問だが、答えはノーである。
髪の毛本来の役割は、脳を内包している頭部を外気温の変化や衝撃から護るためのもので、髪の毛のない頭は、たとえていえば『衣服を脱いだ裸体』と同じである。炎天下の、あるいは酷寒の中で、裸をさらして過ごしているようなものなので、むしろ髪の毛が少ない方ほど、頭皮へのダメージを軽くするためにも帽子を着用すべきである。
人の脳は、大雑把にいうと、大脳、小脳とそれに包まれた脳幹の三つで構成されているが、その重さは、平均わずか1500グラム足らずしかない。
はかり知れない神秘と謎に満ちている脳は、身体の他の器官と違って、いったん疾病などに侵されると、ほとんどの場合重大な後遺症を誘発し、その後の人生に多大な負荷を生じさせてしまう。

今のように衛生設備が整っていなかったころの日本の家屋では、厠(トイレ)が屋外にある家が少なくなかった。
私の幼馴染みの家も戸外にトイレがあったが、彼女がまだ八歳だったころの冬の夜半、用便を済ませた父君が、部屋に戻りつく直前に倒れ、そのまま帰らぬ人になってしまった。死因は脳溢血だったという。
室内と戸外の急激な温度差に脳が対応しきれなかった結果だといわれた。
私が幼かったころは毎年冬になると、脳溢血などに倒れ、死亡したり半身不髄になってしまった方の噂をしばしば耳にしたものだが、ほとんどの場合、夜中に用便を済ませた直後に発病したという。
冬の低温だけではなく、頭部に加えられる高温も、脳に大きな打撃を与える場合がある。真夏の太陽の下で発症する日射病がそれで、脳が健康でいられる温度の幅はきわめて狭いと考えられている。この事例からもわかるように、髪の毛が少なくなってしまった方は、暑い夏や、寒い冬には帽子を着用することが賢明である。
ただ、暑い季節に帽子、カツラ、ヘルメットを着用すると、暑さによって汗をかくので、中がムレてしまう。
髪の役割とヘルメット・帽子
汗は、体温の上昇を避けるために分泌される水分であり、分泌された直後の汗には匂いがない。しかし、分泌されると同時に空気中の雑菌が付着し、猛烈な勢いで増殖するので、その結果汗特有の異臭を放つようになる。頭皮に浮き出る汗も同様である。
帽子、カツラ、ヘルメットを着用されて汗をかいた場合、なるべくこまめに脱いで拭き取るようお勧めする。洗髪は一日一回が基本だが、ヘルメットや帽子を長時間着用して汗をたくさんかいた場合は、基本にこだわらず、洗髪するようお勧めする。
帽子、カツラ、ヘルメットなどを着用しても、毎日きちんと洗髪すれば、脱毛が進行する心配はない。

髪のオシャレと脱毛症

近年、日本人のオシャレ感覚は多様化する一方である。
女性のへアスタイル一つとってみても、個性に合わせたカットや長さ、カールの強弱、髪飾りなどによって、さまざまな変化を生み出している。
なかでも髪の毛を強く引っ張って一つに結ぶ『ポニーテール』は、愛らしさとともに活動的な印象を与えるポピュラーな髪型であるが、毎日続けていると頭皮と毛根に甚大な負担をかけ、脱毛症を引き起こしてしまう場合がある。一昔前までの日本で、丸まげを結い続けていた女性たちの頭頂部が、一様に丸くハゲてしまったのも、ポニーテールと同様に、頭頂部の髪を強く引っ張り続けたためである。
また、オシャレの多様化にともない、パーマやヘアダイを楽しむ方も年々増加している。
パーマは、専用の薬液を用いて髪の毛の表面を傷つける行為で、ほとんどの方が理・美容室などを利用して行うが、パーマと違って、ヘアダイ(白髪染め)を自宅でなさる方はけっこう多い。
ヘアダイは、髪の毛の表面を覆っているキューティクルのバリアーを機能をゆるめて(傷つけ)て、髪に色素を浸透させる染色行為である。
ヘアダイのために使用する毛染め液は、化学薬品的な性質をもっており、使用量や放置時間を間違えると、必要以上に髪を傷め、液が付着した頭皮に炎症をもたらす。
毛染め液は、髪と頭皮にとって大変危険な代物なのである。
一般には知られていないが、髪の毛は皮膚が変化してできたものであり、実は髪と肌の成分は同じなのである。その髪の毛のキューティクルが傷つけられる時間と、酸素以外の異物が体内に入り込まないようにガードしている皮膚のバリアー機能の限界時間は、個人差はあるが、およそ十分~十五分である。
つまり、ヘアダイをする際に、毛染め液が頭皮に付着した状態で、十分以上放置しておくと、頭皮下にまで毛染め液が浸透してしまうわけである。頭皮下に浸透した液は、そのまま不純物として蓄積され、脱毛症の元となってしまう。また、ヘアダイの際に頭皮に付着した毛染め液が、十分に流されず残ってしまうと、化学反応が起き、炎症などを引き起こす。

このため、プロ意識の高い美容室では、お客さまの肌に直接染料がつかないように、生え際にオイルやクリームを塗り、さらに、染料が絶対に頭皮につかないように厳重な注意が払われる。また、すすぎもしつこいほど丁寧である。
ご家庭などでヘアダイを行う場合は、毛染め液が頭皮に付着しないよう万全を期し、万一付着させてしまった場合は、速やかに拭き取るようにしなければならない。そして、毛染め液をつけたまま長時間放置することがないよう、くれぐれも注意していただきたい。
ヘアダイのたびに頭皮に毛染め液を付着させてしまうと、やがて深刻な脱毛症を発症させてしまう。それにヘアダイなどによってキューティクルが傷つけられてしまうと、髪の毛は無防備な状態になってしまうので、どんな小さな刺激一つにも過敏に反応し、一気に傷みを進行させてしまう。
一度傷んだ髪は回復に時間がかかる。パーマやヘアダイを楽しむ方は、毎日使用するシャンプー剤に十分留意し、肌に優しい製品を選択していただきたい。
最近は、本格的なヘアダイではなく、カラースプレーなどを利用して金、銀、赤、青、緑、紫、黄色など多種多様な色を髪に施したり、強力な整髪料で髪を固めて、『ベッカムヘア』に代表されるような奇抜なヘアスタイルを楽しむ方も多くなった。
いずれの場合も、ご自分では髪の毛だけにつけたつもりのカラースプレーや、整髪料などが、時間の経過とともに徐々に髪の根元に流れ落ちて、やがて頭皮に付着してしまう。そうなると当然頭皮の皮膚呼吸を妨げ、結果として脱毛症という深刻な事態に発展してしまうことになる。
したがってカラースプレーやヘアスプレーなどの整髪料を使用する方は、パーマやヘアダイを楽しむ方と同様に、毎日のシャンプーを必ず励行していただきたい。
髪のオシャレにも、良質のシャンプー剤は必要不可欠なアイテムである。
頭皮に薬液がつかなければ、パーマやヘアダイで髪の毛が傷んでも、脱毛に発展する心配はない。

プールの水に潜む危険

戦後、日本は世界最高の長寿国になった。それとともに、子どもたちの成長を見届けた後の人生をいかに生きるかが、人々の重大な関心事になった。赤瀬川源平氏の『老人力』(筑摩書房)がベストセラーとなり、最近では石原慎太郎氏の『老いてこそ人生』(幻冬舎)がミリオンセラーになろうとしているのも、そのあらわれであろう。そしてさらに、誰もが自身の健康管理に少なからぬ関心をもつようになった。
趣味を兼ねた健康管理の一つに、室内プールを利用する人が増えている。プールでは必ずしも泳ぐ必要はなく、水中を歩行するだけで充分な運動になるし、水中では体重による負担が少ないので、膝などにトラブルをかかえた方でも、たやすく歩行運動ができる。高齢者にとって室内プールでの水中歩行は、理想的な運動といえる。
また水泳は、ぜい肉などがつかないプロポーションを保つための理想的な運動の一つでもあり、老若男女の別なく、人気のあるスポーツとして浸透しつつある。

しかし大勢の人が利用するこのような室内プールの水は、感染症などを蔓延させる危険をはらんでおり、定期的に大腸菌などの細菌検査が実施されている。そのうえ、日本の水質安全基準は外国にくらべて数段厳しく、水中で菌が増殖しないように大量の塩素(カルキ)が投入される。室内プールのみでなく、屋外のプールも同様で、幼稚園、小学校のプールにも、アトピー性皮膚炎急増の一因ではないかと思われるほど大量の塩素が混ぜられる。
塩素は、殺菌、酸化、漂泊などの働きが非常に強い成分で、台所の漂白剤や、お風呂のカビ取り剤などにも使用されている。この塩素をもって、トラホームを発症させる病原体やブドウ球菌など、感染力の強い細菌を死滅させたり、繁殖を抑えたりしているのである。
この塩素入りの水は、病原菌だけではなく、実は、私たちの身体を雑菌から保護してくれている『皮膚常在菌』にも影響をもたらしてしまう。そればかりか、髪の毛にも多大な損傷を与えてしまうのである。
プール上がりに眼を洗い忘れたりするとシカシカするのも、塩素の影響であり、どこのプールにも眼洗い場が設置されている。これは塩素による眼球へのダメージを回避するための配慮からである。
塩素が皮膚面に残ると、皮膚常在菌の活動が弱くなり、必然的に乾燥や肌荒れを起こしてしまう。
髪の毛について言えば、枝毛や切れ毛、髪の脱色、ひいては脱毛症も発症させる。塩素は、人間が健康体を維持するために必要不可欠な常在菌を殺してしまうほど毒性が強いことを念頭において、プールから上がったらすぐに、必ず良質のシャンプー剤を使用して洗髪し、ついでに全身に付着した塩素を徹底的に洗い流すように心がけなければならない。そして、洗髪の際はコンディショナーの使用を絶対に忘れないでいただきたい。